思って」
「ほう、そいつは有難いね、へえ、そうかい、おろくさん、そんなにお嫁にいきたいのかい」
ろくは、そう云われるのばかりを待って、先刻から坐っているようであった。彼女は、五本の指が人並にすっきり離れていず、泥っぽい蹼《みずかき》でもついていそうな手で、食台の縁などこすりながら、
「ヘヘヘヘ」
と笑った。
「ハッハッハッ、ヘヘヘヘはいいね、ハッハッハッお前みたいな器量よしは引手あまたで困るだろう、ハッハッ、どうも恐れ入るな」
露骨で卑穢な冗談は、女房が席に現われると一層激しくなった。いしは、噪いで喋った。
「罪だわねお前さん、一度可愛がってやっとくれな、御覧よこの様子をさハハハハ見たとここそ、そりゃあ余り何じゃあないけれどねえ、ろくちゃん、却ってねえ、そうだろう?」
ろくは、矢張り、顔を皆の正面に向けたまま、
「ヘヘヘヘ」
と笑った。
「ヘヘヘヘだってさハッハハハハ」
どっと笑いこける。ろくも一緒になって笑った。それがまた堪らないと笑って、崩れるような騒動になった。
ろくが、嫁に世話してくれと頼むのは、内輪の者だけではなかった。彼女は、殆ど顔を見る人ごとに頼むらしかった。い
前へ
次へ
全24ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング