、一度と思い起すたびに、それに絡んでくる乙女の感情は複雑になった。
勉が放蕩をするような男とは反対の性の男であることが、おまわりとの会話を何とも云えずおかしく妻としての乙女には寧ろ愉快にさえ感じさせたのだが、勉のその確かりした気質について真面目に思いすすめると、乙女は自分と勉とのつながりについてこれまでになく深いものを感じた。
急な情勢の必要から、勉は乙女があれこれ考える暇もなくよそに住むようになった。勉は放蕩から自分をすてる男でない。今まではそこまでしか考えのうちになかった。が、自分が運動についてゆけなければ勉は自分を妻にしては置かないであろう。今では、動かし難くはっきり乙女にそのことが会得された。万一そういうとき、それでもと勉にからみ、恥かしい目を見せることは乙女にとても出来なく思われた。プロレタリアの運動の価うちと勉のねうちがいつしか身にしみこみすぎている。乙女は、それらのことを考え、勉が家を出てから初めて、枕の上に顔を仰向けたままミツ子を抱いて永いこと睡らなかった。
もうセルの時候であった。
明るい、細い雨がよく降った。雨ふりだと、しっとり濡れた前の杉苗畑から、若々しい
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