、上眼で一人一人祖父ちゃんから、祖母ちゃんへと眺めながら、出来るだけの速さで一どきにそれを頬ばる。――
台所での問答があってから、五六日後のことであった。十時頃乙女が、ひどいときは三日に一度ぐらいしか番のまわって来ない「すずらん」に坐っている間に編んだレースの内職を届け、六十銭ばかり貰って坂をぶらぶら中途まであがって来ると、むこうの方からおまわりがやって来た。片側は杉苗の畑で、道は一本である。悠《ゆっ》くりのぼって来ながら乙女が見ていると、そのおまわりは一軒ずつ表札を眺めて来て、小祝の紙切れを貼り出してある格子の前へ立った。あけて、入って、高い声で、
「こんちは――いませんか」
呼んでいる。乙女の息は坂をのぼったためばかりでなくせわしくなって、思わず口をあけるようにしその辺を見廻したが、さり気なく二軒ばかり手前から曲って裏へまわった。
折から、祖母ちゃんがバケツを出し洗濯ものを乾しかけてある。それをしぼり、竿にかけてひろげながら、物音たてず土間での応待をききすました。
「家族は、そうすると今のところ五人か?」
「さよでございます」
「その子は……ああ、ミツ子か」
おまわりは、帖
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