を食べさせた。
三畳の方にある寝床に入ってから、勉が小声で、
「祖父ちゃん、一日何しているか?」
と乙女に訊いた。
「――坐ってたよ」
そして、おっかないことでも云うように乙女は一段と声をひそめた。
「祖父《じっ》ちゃん、ぼけてしまったんであるまいか――」
勉は返事しなかった。そうやって頑固に坐って、祖父ちゃんは自分の暮しぶりを観察している。そのことを勉は感じた。本当に自分が働き出さねばならないか、さほどでないのか、見ているような貞之助の黙りこくった気分が、勉に苦々しく映っているのであった。
毎日、五時頃になるとダラダラ坂の下の通りにあるラジオ屋の前へ出かけてゆき、職業紹介の放送をきいたり、少年らしい赤い頬に青いシェードの灯かげをうけながら、長いこと飾窓に眺め入っていた勇が、一ヵ月ほどして、京橋の方にある会社の給仕に雇われるようになった。二ヵ月払い五円二十銭の古自転車を勉が見つけて来てやった。勇は嬉しそうにそのペタルを踏んで通い、夜帰って来ると、
「今度の会社、でかいよ。僕らぐらいの給仕が五人もいるよ」
A市の銀行の小ささがわかったという風に口をとがらして云った。
「だけんど
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