が》んでいるまきに小皿をさし出した。まきは、音たかくその味噌汁を吸った。
「よかろ……」
乙女と祖母《ばっ》ちゃんとは、味噌汁を薄めてそこへうんと塩を入れたものを皆にのませはじめたのである。
小さいチャブ台にぐるりと膝をつめかけ、ミツ子までものも云わず、非常にはやく、一家は朝飯をくう。
それから出かけるまで時間があっても、勉は殆ど誰とも口をきかなかった。縁ばたに近い方へ腹這いになって本を読んだ。思い出したように祖父《じっ》ちゃんに向って、
「――おやきの鉄板どうしたかね?」
などと訊くことがあった。
「売って来た」
ぽっきり、貞之助が答える。二人の間で話はそれ以上のびないのであった。
勉が、すり切れた紺外套を着て出かける。貞之助は、そういうときでも決して気軽に立って来て見ようなどとしなかった。手織木綿の羽織の肩を張って坐っているのであった。
夜になって勉が帰って来る。電燈がついているだけの違いで祖父ちゃんは一日たったのにやっぱり朝いたところで、新聞と煙草盆とを前におき、坐っていることが多かった。勉の留守には乙女が、祖母ちゃんが才覚してもって来た粉でそばがきぐらいをこしらえ皆
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