も楽に歩けないので、時に応じて日かげの側が選ばれるのであった。
溢れるような日光が硝子や招牌、旗などの上に漲っているのを一方に眺めながら、身は薄らつめたい、堅い、日かげの鋪道を歩いて行く心持よさは、何に例えよう。
私は、心持がすがすがしければすがすがしい程、先をせかなかった。
ずらりと並んだ商店の飾窓から二三尺の距離を保って、森の中でも散歩するような暢やかさで、眺め眺め進む。
余り奇麗な布地でもあると、私は呉服屋の前に立った。
異国風な豊麗さで細々化粧品や装身具などを飾った窓に来かかると、私は、堪能するまで其等の一つ一つを眺める。
本屋の前に出ると、私の眼には、微に意志の光めいたものが浮んだ。表の新着書籍を見わたし終ると、私は、内へ入って行った。丁度、燕が去年巣をかけた家の軒先を、又今年もついとくぐるような親しさで。
台から台へと廻って歩き、懐が許せば一箇の茶色紙包が、私の腕の下に抱え込まれるだろう。けれども、その楽しい収穫がいつもあるとは定っていない。三度に二度は、空手で出る。欲しい本がなかったか、私の小さい紫皮の財布に、電車の切符しか入っていなかったかの理由で。――
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