小景
――ふるき市街の回想――
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)鋪道《ペーブメント》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)このような空想的|遠征《エクスピディション》を、
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九二三年十二月〕
−−
その街は、昼間歩いて見るとまるで別な処のように感じられた。
四方から集って来た八本の架空線が、空の下で網めになって揺れている下では、ゲートルをまきつけた巡査が、短い影を足許に落し、鋭く呼子をふき鳴しながら、頻繁な交通を整理している。
のろく、次第にうなりを立てて速く走って行く電車や、キラキラニッケル鍍金の車輪を閃かせ、後から後からと続く自転車の列。低い黒い背に日を照り返す自動車などが、或る時は雲の漂う、或る時は朗らかに晴れ渡ったその街上に活動している。
やや蒲鉾なりの広い車道に沿うて、四方に鋪道《ペーブメント》が拡っていた。
東側の右角には、派手なくせに妙に陰気に見える桃色で塗った料理店の正面。左には、充分光線の流れ込まない、埃っぽく暗い裁縫店の
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