大飾窓。板硝子の上の枠に、ボウルドフェイスの金文字で、YAMAZAKIと読めた。
西角は、ひどく塵のたかった銀行の鉄窓と、建築にとりかかったばかりの有名な時計屋の板囲いとに、占められている。
晴やかな朝日は、そのじじむさい銀行の鉄窓の棧と、板囲いのざらざらした面とを照した。午後になると、熟した太陽の光は微に濁って向い側の料理店の柱列や、裁縫店の飾窓に反射した。一層悲しげに見える料理店の桃色の窓枠の間々には、もう新鮮さを失った飾花や、焼きざましのパイの大皿や青いペパミントのくくれた罐などがある。
鋪道には、絶え間なく男や女が歩いていた。が、どの歩調も余り悠長ではなかった。
折鞄を小脇にかかえた日本服の商人、米国風の背広を着た男達。彼等は車道のすぐ傍を、同じように落付かない洋服姿の男等が膝かけなしで俥に乗り、カラカラ、カラと鈴をならして駆けさせるのを見ないふりで、速足に前へ前へと追い抜いて行く。
女は、一目で、此界隈の者が多いのを知れた。種々な種類の彼女等は、装こそ違え、全く同じような歩きつきを持っていた。顔だけはぬけ目なく並んだ店舗の方にむけているが、足は飽きることない好奇心と
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