は全然無関係な機械のように、足頸を実に軟くひらひら、ひらひらと、たゆみなく体を運んで行くのだ。
合間合間に、小さい子供が一輪車に片脚をのせて転って行った。女の子達が、毬を持って、街路樹のかげで喋っている。子守女のぶらぶらする様子や、店頭でこごんでたたきを掃いている小僧の姿などが、一瞥のうちに、暖い私的生活の雰囲気を感じさせた。
私は、大抵のとき、前に云った建築敷地の板囲いの前に自分を現した。山の手の住居の方から来る電車の停留場が其処にあった。
段々速力をゆるめて赤い柱の傍に来、車掌が街角の名を呼ぶと、どんな時でも少くとも三四人の者が、俄に活々した表情を顔に表して座席を立った。私もその裡に混り前後して降るのだが、又いつもきまって、後をふりかえり自動車が来ないか注意しているひまに、偶然の連れの姿は見失ってしまう。
私は、新聞売子が広告をはりつけた燈柱の下に立って、暫く四辺を見た。
時によると、さっさと車道を横切って彼方側、裁縫店の大飾窓の前に行く。或る日は、降りた側で左か右に方向をきめる。それは、私が其処に現れた時候と時間とによった。私は、顔の正面から日光に照りつけられては、半丁
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