不必要、自分に似合う似合わない、その他多くの購買者が必ず持つ私的条件を全く超えて、全くそのもののよしあし、価値を見極めようとするから。そして又、少し眼の肥えた観賞者なら、そう何から何までに感服はすまい。美しいものをしんから愛するものは、或る場合痴人のように寛大だ。然し或る時は、狂人のように潔癖だ。そして変な物を並べる商人を何かの形で思い知らせる。
のどかな漫歩者の上にも、午後の日は段々傾いて来る。
明るく西日のさす横通りで、壁に影を印しながら赤や碧の風船玉を売っていた小さい屋台も見えなくなった。何処からとなく靄のように、霧のように夕暮が迫って来た。
舗道に人通りがぐっと殖え、遙か迄見とおしのきいていた街路の目路がぼやけて来た。
空気の裡には交響楽のクレッセンドウのように都会の騒音が高まる。遽しく鳴らす電車のベルの音が、次第に濃くなる夕闇に閉じ罩められたように響き出すと、私の歩調は自ら速めになった。もう私の囲りでは、誰一人呑気に飾窓などを眺めている者はない。何処からこれ程の人々が吐き出されて来たか、大抵一人で、連があっても男は男同士、女は女づれの群が、四隅に離れて立った赤柱の下
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