護者として置いては不安だと云う様な事をぼんやりとながら思って居たものと見えてしきりに、
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「悪戯っ子が居ないで好い。
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と云う言葉を繰返して居ました。
彼の温室の前の方へ立ってズーッと彼方を見渡すと、多勢の人が歩き廻って居る時には左程にも思いませんけれ共、木の梢も痩せ草も末枯れて居ておまけに人っ子一人居ないのですからもうそりゃあそりゃあ広くはるかに見えます。
私でさえ一種の緊張を感じた程です。
私共は休所のお婆さんに会う事を楽しみにして居ました。
行って見ますと、寒くは有るし正月では有るしと云うので店を閉めて、よくお茶等を飲んだ床几なども足を外に向けて高い所に吊りあげて仕舞ってありました。失望は仕ましたものの、前に幾度もお煎餅を食べたりした所だと云う事は少なからず弟の気を引き立てて却って静かな人の居ないのが嬉しいと云う様な気を起させました。
私は自分の居る所の番地も知らずに居る罪のない後生願いの婆さんの事を可愛らしく思い出しながら、大変愉快そうに頬を火照らして微笑して居る弟の顔を見て居ました。
四月に大塚の一年に成った彼は今お伽
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