ほんとにいつもいつも此処へ来る時はきっと走り廻る事の面白い身軽な兄や書生と一緒で少くも四五人の者が高声で喋ったり笑ったりして来るのに馴れて居ますから機嫌よく仕ながらも左様兄達の様に騒がない私と二つ限りの影坊子を淋しがったのは無理も有りません。
[#ここから1字下げ]
「又彼のお婆さんの所へ腰かけて行きましょう。
[#ここで字下げ終わり]
等と話しながら、温室の前に出ると黄ばんだ芝生の何とも云えず落着きのある色と確かな常磐木の緑、気持の好い縞目を作って其の影を落して居る裸の木の枝々の連り等が、かなり長い間此那所へ来ないで居た私の目に喫驚《びっくり》する位嬉しく写りました。
 私に手を引かれて立ち止まって大きい目をクルクルさせて四辺を眺めて居た彼は如何にも感に堪えない様な調子で、
[#ここから2字下げ]
随分静かだいね、
悪戯っ子も居ないで好い。
[#ここで字下げ終わり]
と云った顔には明かに今まで一度も見た事のない非常に人気なく拡がった景色に対する驚異の興奮が現われて居ました。
 まるで見覚えのない始めての世界へ連れ出された様な気持で、何か変の有った時にはまだ年の若い腕力の弱い姉一人を保
前へ 次へ
全9ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング