張りいつものお嬢さんのこと。二三日前からどうも工合がよくないから、今夜でも来てくれっておっしゃるの。だけれども、まだお帰りがなかったから、とにかく御用の趣だけは申し伝えます、と云って置きましたわ……(一種の表情)それにしてもまああのお家じゃあ、よくお嬢さんに病気許りさせていらっしゃるのね、先月だってどこか苦情がおありになったんでしょう?
良 三 可哀そうに。まさか病気を「させ」る積りじゃああるまいが――とにかく弱いことは弱いね。
やす子 でも、私あの方のお家を見ると、ただ生れつき弱いからという許りじゃあないように思えますわ。おかあさまなんか、まるで家に落付いていらっしゃらないんですもの。いつだって、熱度の計りようも知らないような女中だか家庭教師だか見たいな人ばかり、電話に出るんですのよ。
良 三 (苦笑)まあいいさね、どうでも。津本のことは津本のことだ。そう憤慨しずに御飯でもよそっておくれ。(茶碗を出す)
やす子 (無条件な笑顔)だって……子供が可哀そうですわ(飯を盛って渡す。また真面目な表情)――だけれど、ああいう方なんか、どんな心持で御自分の子供を見ていらっしゃるんでしょうね。

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