秋草を描いた銀地の色紙をかけ、下に、桑の茶箪笥。稍々《やや》下って配置よく長火鉢や水屋棚が置いてある。
同じく下手は、二枚の襖で奥に通じ、傍に畳んで置いてあるつや子のくるみ袢纏が、鮮やかなメリンス友禅の色を浮上らせて、庭の暗闇と著しい対照をなす。
中西良三、寛《くつろ》いだ黒っぽい平常着《ふだんぎ》、
やす子は、穏やかな束髪、銘仙の着物、羽二重の帯、
二人とも、見物に横顔を見せながら、食卓に向っている。
縁そと上手には、八つ手の植込みのかげに、障子の閉った部屋が見える。
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やす子 (少し延び上って、卓子《テーブル》の中央に煮えている寄せ鍋の加減を見る)どう? お加減は。もう少し足しましょうか?
良 三 結構だよ。有難う、お前もおあがりな、まあそう気を揉むなよ。
やす子 (笑う)気なんか揉みゃしませんわ、だけれど、どうかと思って……
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二人とも黙って箸を運ぶ、平和な静けさ。突然、
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やす子 ああ、忘れていた!(と云いながら良人の顔を見る。)先刻ね、津本さんからお電話が掛りましてよ。
良 三 ほう何だッて?
やす子 矢
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