務まりかねるからねハハハ(強いて快活な笑声)――じゃあそうしてくれ給え、三谷にでも訊いて見よう、ウム有難う、じゃあ失敬、忙しい処を迷惑だったね……失敬。
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ベルの音。
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やす子 (まだ姿の現れない良三の方に顔を向けて、言葉をかける。非常に焦立った不安な声)どうでして? 駄目?
良 三 駄目だとさ(云いながら出て来る)謡の会があって自分が主宰者だからどうしても今夜は抜けられないと云うんだ。(わざとやす子を見ず、つや子を覗き込む)どうだね?
やす子 まあ! 謡ですって? 呑気ね、(やす子失望と不安で我知らず自制を失う)抜けられないって、一晩中掛るのじゃあ、あるまいし。あの方の謡なんかより、つや子の命の方が、よっぽど大切ですことよ。(良三を鋭く見る)うんそうかって引込んでいらっしゃる貴方も貴方ね。
良 三 おい、おい(たしなめる)「奥さん」になるなよ。そう無茶を云ったって仕様がないじゃあないか。(二重の意味ある声)あの男だって、偶の楽しみであって見ればフイにされたくもなかろうさ。(心に湧く感情を、強いて紛らすように、髭の辺を撫で、部屋を歩き廻り始
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