める)
やす子 (忽ち、或ることを直覚する。鋭い表情で良三を見詰める)弁解?
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やす子の顔には、歴然と不愉快、嫌厭の表情が現れる。唇をかみしめながら、無言で計温器を出し、灯にすかして見る。殆ど叱責するような語調。
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やす子 貴方! 八度一分よ。(緊張した沈黙、じっと喰い入るように落付かない良三を睨まえていたやす子は、怒った牝獅子のように憤然として)貴方!(唇が震える。それをぐっと堪《こら》え)私は、貴方の意地で、子供を殺してはいられませんよ。
良 三 (打たれたように、やす子を見る。つや子を見る。益々落付きなく部屋を歩き廻り、立止り、何か云おうとする。が、止め、遽《あわただ》しく部屋を出、廊下に消える。)
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やがてベルの音。
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良三の声 (沈んで重々しく)小石川の九百五十二番。
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やす子、思わず深い深い溜息をつき、つや子を見、涙をほろほろとこぼす。彼女は立ったまま、たみ、膝をついて中腰になったまま等しく眼を据えて、電話の方に耳を欹《そばだ》てる。――
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