えて来る。
[#ここで字下げ終わり]
良三の声 あ、番町の三千九百五十六番……ああ、もしもし横田さんですか? 先生は御在宅ですか? そう、僕は中西ですが、一寸電話口まで出て頂けるでしょうか……ええ、――どうぞ。
やす子 (僅にほっとしたらしく囁く)いらっしゃるらしいね。
た み さようでございますね。(共にきき耳を立てる)
良三の声 やあ横田君か? せっかくお休の処を偉い邪魔をしたね。――いや、どう致して。……そうだろうとも。
実はね、突然だが、うちの赤坊が、先刻から妙に泣き立てると思ったら、どうかして耳に少々出血しているのさ。何?――ああ、見たがね、駄目だよ、別に脈搏に異状もないから大したことじゃあなかろうと思うんだが、何しろ、当人より阿母さんの心配の方が激しい有様だから気の毒でも、一つ来て貰えないだろうか。若し都合して貰えれば、直ぐ車をやるが。
やす子 (確かりつや子を抱きながら、一層注意を傾ける)
良三の声 フム、フム、そうかい――それは困ったな。
やす子 (思わず、はっとする、つや子を抱いたまま立上る。)
良三の声 いいや、決してそんなことはない。仕方がないさ。そうそうはお互に
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