箪笥の上の時計を見る)
[#ここから4字下げ]
泣声はだんだん近より、八つ手の植込みのかげの部屋で、
「さあ、よい子よい子、つや子ちゃま、なきなきおやめあちょばせよ」
と子守が節をつけてあやしているのが聞える。
子供は泣き止まない。
[#ここで字下げ終わり]
やす子 (独白)困るわね、泣くと連れて来るんですもの。
[#ここから4字下げ]
やす子、子守に負けるものかというように食器を盆にのせたり、水|焜炉《こんろ》の火を長火鉢に移したりする。
がとうとう気になって堪らなくなった声で子守を呼ぶ。
[#ここで字下げ終わり]
やす子 たみ、こちらへ連れておいで。
[#ここから4字下げ]
待ちかねていたように、「はい」と返事が聞える。上手の縁側から、たみ、白い前掛に、染絣《そめがすり》の着物、赤まじりの帯で、つや子を抱いて来る。
つや子は、可愛らしい友禅の袖なし、大きな犬張子の縫をしたエプロンをかけた、色白の肥った愛らしい子、右の手で耳の辺を払うようにしては啜りあげている。母の顔を涙の裡から見て、小さい手を延す。
[#ここで字下げ終わり]
やす子 はい、はい、つやちゃんや、どうしたの、え?(可愛
前へ 次へ
全20ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング