には、その上の御機嫌伺迄出来ないよ、そういうのは、馬鹿正直というんだ。
やす子 それは奥さんのなさりかたも感情的ね。――でも……何だか気が済まないようじゃあありませんの? さっぱりしませんわ、電話をかけましょうよ。
良 三 ――少しは胆にこたえたか、と云って奥さんは、いよいよ壮重な涙を「幾百の幼児のために」こぼすだろう。
やす子 随分意地ずくね(目に止まらぬ寂しき笑)……無理にかけようとは申しませんことよ。
良 三 (黙々として楊子を使いながら、夕刊を見はじめる。いくら辛辣な言葉を吐いても、気分のうっとうしさは散じきらないという様子)
やす子 せっかくの御飯が台なしになりましたわね、いけなかったこと。(努めて良三の気を引立たせようとする本能的な心づかい。ちょいちょい彼の方を見ながら、食卓を片づけ始める。)
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遠くで、子供の泣声がする。だんだんそれが近づくにつれてやす子の注意がその方に集注される。
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やす子 (手塩《てしお》を親指と央指《なかゆび》とで抓《つま》みあげたまま、耳を立てる)つやちゃんだわ……どうしたんだろう今頃……(振返って、茶
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