文学は、現実生活から特殊な文学的世界へ遊離してしまっていた薄弱さから旧特権とともに崩壊し、過去の大衆文学は特権者の利害のために無智におかれ従属におかれていたこれまでの民衆生活をふりすてると共に多数の人々にとって慰安のたねにもならなくなって来た筈なのである。
 ところが、今日の現実を見ると、私たちの心に浮んで来る文句がある。それがとりも直さず「商売は道によってかしこし」である。
 依然として、読ませて儲けるのが眼目である出版物は、猛烈な新円獲得の目的もあって、この頃はいわゆる大衆性を得るということを、エロティシズムに集注している傾きがある。

 戦争は人間性をころした。ましてや、微風のような異性の間の情味や生活の歓喜の一つの要素としての感覚・官能の解放は圧殺されていた。きょう私たちは人民が人民の主人となった解放のすがすがしさに、思わず邪魔な着物はぬぎすてて、風よふけ日よおどれと、裸身を衆目にさらしているのだろうか。ああ、これこそわれら働く若い男女の愛の希望と互にうなずける社会的解決があって、抱擁し接吻しているのだろうか。それとも、職業もない、空腹がある、そして幻滅が大きい。せめては、こん
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