まいとするのだ。

     *

ああ、われは
献納の香炉。
ささやかな火は絶えず
立ちのぼる煙は やまねど
行くかたを知らず 流れ行く途も弁えない。
若しわが献げられた身を
神がよみし給うなら
寂漠の瞬間《とき》
冲る香煙の頂を
美しい衛星に飾られた
一つの星まで のぼらせ給え。
燦らんとした天の耀きは
わが 一筋の思 薄き紫の煙を徹して
あわれ、わたしの心を盪《とろ》かせよう
   恍惚と

  六月二十二日

淋しい日々の生活――
あわれな 我良人は
蒼い顔をし 黙り
神経質に パタパタと手づくりの活字を押す。
 私は、
笑うすべもなく
楽しい言葉のかけようもなく
ともに黙し 物を思う。

ああ 淋しい生活!
昔、娘であったとき
彼を恋わぬ前
自分は
このように寥しい生活が
此世にあると思っただろうか。

何が、貴方の心をそんなに閉すのか
どうぞ さっぱりと云っては下さらぬか

 云い知れぬ不満や不快が
 家に満ち 我心をくい
 なやませる。

私は、楽しい晴々した生活がしたい。
我心に満ちる愛やまごころを思えば
それの与えられぬのが不思議に思う。

彼と云う、我ただ一人の愛し
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