経を貫いていなければ、結局はヒューマニズムそのものが生彩ある発動、深化、推進力を麻痺させられてしまうというような、質的な関係につながれているのではないだろうか。

        困難な新進の道

 芥川賞を得た小田嶽夫・鶴田知也「二新人に訊く」という題で『三田新聞』に小田嶽夫氏の書いている文章をよみ、それと腹合わせに「創生記」(太宰治・新潮)を読み、私は鼻の奥のところに何ともいえぬきつい苦痛な酸性の刺戟を感じた。昔の人は酸鼻という熟語でこの感覚を表現した。更に「地底の墓」(打木村治・文芸春秋)「落日の饗宴」(横田文子・文芸春秋)とを読み、いくつかの「新人論」を瞥見し、私は、文学に、何ぞこの封建風な徒弟気質ぞ、と感じ、更に、そのような苦衷、あるいは卑屈に似た状態におとしめられていることに対して、ヒューマニズムは、先ず、文学的インテリゲンチアをゆすぶって、憤りを、憤るという人間的な権利をもっているのであるという自覚を、呼びさますべきであると思ったのであった。新人として推薦され、人前に立つと、その顔に向って、いやこれは違う、本当に新しいとはいえぬという声が正面から発せられ、しかも、推薦者は
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