こちら……ない家歩いて、金沢山取ることありませんか?」
「大丈夫ですよ、そんなこと!」
 男は、辛辣な質問に驚いたように見えた。この外国人が日本に来、こんな質問をするような経験を多くしているのかと思ったら、自分はひどく不愉快になった。
「大丈夫です、信じなさい。私は、外国の人の為には出来るだけ親切にしますから」
「――有難う……」
 帽子に手をかけ、所書を貰って彼は出て行った。
「偉いことを云いますね」
 男は、皆の顔をぐるりと見廻して、あまりハーティーでない笑をあげた。――
 それから、幾日か経ち、八月の或る日の午後(念の為にAの日記を見たら、八月の八日、土曜日で、この日は何かの必要から博物館に行った後、と書いてある)上野の停車場に止宿している、アナンダ・クマラスワミー博士を訪問した。
 新聞で、彼の来朝を知り、Aが、コロンビアの、プロフェッサー・ジャクソンの教室で紹介されたことがあるので、会ったら彼の為に何か助けられよう、と云うのであった。
 彼は、印度人で、幼少の時から英国で教育され、今はボストン博物館で、東洋美術部の部長か何かをしながら、印度芸術の唯一の紹介者として世界的な人物
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