や改って腰を下した。規則をきき、一ヵ月、貸家の通知書を送って貰うために、五円ほどの金を払ったと覚えている。
その変に捩くれた万年筆を持った男が、帳簿を繰り繰り、九段にこんな家があるが、どうですね、少々権利があって面倒だが、などと云っている時であった。
格子の内に、白い夏服を着、丸顔で髪の黒い一人の外国人が入って来る。
そして、貸家が欲しいと云う。そこに居合わせた、自分等を入れて四五人の人間は、一時に好意ある好奇心を感じた。
指ケ谷辺で、二階のある家、なおよろしい。あまり高いの困ります。と、非常に語尾の強い、ややぼきぼきした言葉で、注文の要件を提出した。
私共に応待した卓子の前にいた男は、立って行って、盲唖学校の近所にあるという一軒の家をサジェストした。
「場所は分りますか? 電車分りますか?」
「分ります。私行ったこと、よくありますから。――然し、いやなことありますまいね」
「何です?」
男は、何方かといえば子供らしい、きかん気の子供らしいその外国人の顔を見下しながら、敷居の上から薄笑いした。
私共も、思わず微笑した。併し、何処の人だか、見分けがつかなかった。
「あちら、
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