思い出すこと
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)私《ひそ》かな

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)継[#「継」に「ママ」の注記]いて、
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 レーク・Gへ行く前友達と二人で買った洋傘をさし、銀鼠の透綾の着物を着、私はAと二人で、谷中から、日暮里、西尾町から、西ケ原の方まで歩き廻った。然し、実際、家が払底している。時には、間の悪さを堪え、新聞を見て、大崎まで行き、始めて大家と云うものの権柄に、深い辱しめを感じたこともある。また、寛永寺の傍の、考えても見すぼらしい家を、探しあきて定めようとしたことなどもある。
 丁度、その頃赤門の近くに、貸家を世話する商売人があったので、そこへ行って頼んだ。三十円位で、ガスと水道のある、なるたけ本郷区内という注文をしたのである。
 考えて見ると、それから一年位経つか経たないうちに、外国語学校教授で、英国官憲の圧迫に堪えかねて自殺したという、印度人のアタール氏を始めて見たのがその周旋屋の、妙に落付かない応接所であった。
 今顧ると、丁度その夏は、貸家払底の頂上であったことが分る。継[#
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