「継」に「ママ」の注記]いて、内務省の取締りを受けない貸家周旋人が、市内には殆ど無数あった。中には随分曖昧な、家賃一ヵ年分を報酬として請求するとか、三月分を強請されて、家はどうにか見付かったが、その片をつけるに困ったとかいう噂が彼方此方にあった。私共も、自分で探していたのでは到底、何時になったら見付かるか、見当もつかないような有様であったので、窮した結果、頼んだのではあったが、始めて行った時には、不安な、油断のならない心持がした。
 多分、赤門の少し先、彼方側で、大きな土管屋か何かの横に入った処にその家はあった。とっつきは狭い格子戸で、下駄を脱ぎ散らした奥の六畳と玄関の三畳の間とをぶっ通しにして、古物めいた椅子と卓子とが置かれているのである。
 男が二人いて、それぞれ後から後から来る客にアッテンドしている。年は二十八九と四十がらみで、一目見ても過去にまとまった学歴も何もなく、或る時代、或る時期の社会的需要に応じて、職業を換えて行く種類の人間らしく見えた。よくある、商売人とも政治屋とも片のつかない一種のタイプなのである。
「お上りなさい」
と幾度も云うので、私共は、上へ上り、その椅子にや
前へ 次へ
全6ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング