てイギリスとの取引契約の遂行のために、敢て商売仇から破産させられることを辞さなかった。作者は、この主人公を衷心から支持し、登場人物の一人である医者の口をかりて、はっきりと次のように云わせている。
「悪い結果が来るから悪いことをしないのではない。結果の如何にかかわらず、人はしなくてはならない事を、しなければいけないということです。なあ有村さん。そうではありませんか」
允子もその事実を認めている今日の社会的悪の問題は、「波」の中で云われている如く「決して一つ一つのぼうふらじゃない。ぼうふらの湧く溝にあるのだ。その大溝が掃除されんうちは、いつになったってぼうふら[#「ぼうふら」に傍点]は絶えやし」ないのである。では、その掃除はどのようにされるべきなのだろう。作者は一九二八年に書いた「風」の中でそれについて、素子にこういう意味を云わしている。生活というものは、鉄道線路のようなものではない。河のように野原を流れてゆくものだと思う。河は、両側に岸があって、水はいつもその間を流れるもののように思われるが、それは違う。岸があるから河はその間を流れるのではなく、河が流れたからこそ岸が出来た。この岸から
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