山本有三氏の境地
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)些《いささ》か
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)勉強する気|頓《とみ》になくなる。
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)いざこざ[#「いざこざ」に傍点]に堪えて
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今日、山本有三氏の読者というものは、随分ひろい社会の各層に存在していることであろうと思う。
大仏次郎氏などの作品も、吉屋信子氏が読まれるとは別のところに多くの読者をもっていることでは、山本有三氏と同様であろうが、作者と読者との間にある共感の種類は、必ずしもこの二人の作者に於て同じものであるとは思えない。大仏次郎氏の近作「雪崩」などを見ても、読者が大仏氏に牽かれるのは、この作者のこの作者らしい人生観照の或る気分、現代のインテリゲンツィアの一部の人々がよかれあしかれ実際にもっており、或は扮装としてポーズしている知的情感的な或る気分の、文学的表現の味に魅力を感じているのであろうと思われる。大仏氏の読者たちは、大仏氏の作品の裡に、自分たちの現実の姿の断片を発見し、更にその発見によって、
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