上りを待っていたら突然ガラを食ったというようなものでしょう。」
地道な子を育てようとして、そう行かなかったとしてそれは母だけの罪ではないことを作者は認めている。子供のことはもう家庭の中でだけ解決した時代が過ぎた。そのことをも作者は認めている。だが、所謂、それた[#「それた」に傍点]若い者たちの、そのそれる[#「それる」に傍点]必然の事訳が、世間並のよしあしとどんな道義的関係にあるものかという読者にとって最も知りたい点を、作者山本有三は、「若い者は誰も登ったことのないような高い山に登りたがるものでしてね」「どうしてあんな危い、骨の折れることがやって見たいのかわれわれのような年配のものには分らないんですが……」というような表現で、謂わば狡く身を躱《かわ》しているのである。
一九二〇年にこの作者によって書かれ、出世作とでも云うべき作品となった「生命の冠」で、山本有三氏は、その悲劇的主人公有村恒太郎を如何に生かしたであろうか。この主人公は「商人の務めは儲けるばかりが能ではない。」「商人の本務は契約を守ることだ。」「(前略)金に添っても添わなくても自分のやることはやらなくちゃならない」と云っ
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