はなかろうか。この社会的矛盾の間に、人間らしく生きようとするには、何をなさなければならないか。いかに生きるべきか。山本有三氏が十数年来、芸術の裡を一貫させて来たこのテーマは、現在新しい拡りで多くの人々の生活のテーマとなっていると思う。
 元来、この作者は「己の子」というものに対する親の側からの態度について特色的な根づよさで探求をくりかえしている。「波」で作者は、子供は要するに社会の子として見るべきであり、親子の関係はメデシンボールのようなものだ。「落さないように、よごさないように次の人に手渡すのが第一だ」という結論に到達した。五年ばかりの年月は、「女の一生」において更に自分の期待を裏切られた親を、株ですった人間の落胆に比較せしめている。允子の失望に対して、往年の幼馴染、昌二郎は云っている。
「(前略)子供の出来がいい。それで投無《なけなし》の金をつぎ込んで大学へあげる。子供の出世を夢見ていたところが子供は横道へそれてしまった。思惑ががらりと外れたんであんな風になったんじゃないんですか。株に失敗して気が違う人間がよくありますが、あれもまあそれと似たり寄ったりらしいですね。息子に投資して値
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