高等二年生にした二十年の歳月は、公荘と允子との生活をもいつしかかえ、彼等は郊外に木造の小じんまりした洋館を新築した。「家は出来るし、生活の不安はないし、允男の成績はいいし、一家は和平に満ちていた。」
 然し、時代は、允子が允男に風邪をひかすまいとばかり心をくばって生きて来る間に、風波の高いものとなって来ている。公荘夫婦は、允男のかえりがおそくでもあると「まさかそんなことはないと思うけれど」「一つの流行《はやり》だからな」と息子が赤になることを警戒し、息子の書斎をしらべたりする。ハイネの「アッタ・トロル」を「読んでいるようだと、よほど注意しなくちゃいけませんね」「もちろんだ、うっちゃっておいたらそれこそ大変だ。」こういう警戒にもかかわらず、「己は赤の方の心配さえなければ外に心配はないよ」と云う将にその心配が落ちかかって来て、息子はつかまる。允子は警察で息子に会い、父親の地位の危くなることや息子の親友の一人の名を発表したりして、允男を泣き落そうとする。
 釈放されて来た允男は允子にゴーリキイの「母」などを読まそうとするのであるが、允子の考えは、允子は「生活や教養が違っているから」「息子をと
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