ものは生れさせなければいけない」そして、允子は私生子として第一の出産を行うのである。生れた男の子は允男と命名された。「允男! 允男」「允子に取っては何よりも允男である。」やがて公荘の妻が病死し、允子は失職する。子供を抱えた生活が脅かされはじめ、允子は「結局女に残された一番万全な職業といったら細君業の外にはないのだろうか。これなら一生食いそこないはないのだ」と、細君を失くした医者の後妻の縁談までを、一旦ことわりつつ「あんなに急にことわることはなかったのかもしれない。」とさえ思う。「しかし、もし結婚するのならそんな知らない人よりも……」気心も分っている公荘と、「前のことなんかすっかり水に流して」夫婦になってもよいと思うのである。
 公荘と家庭をもった後も医者として勤めに出ていた允子は、やがて子供の教育には、母が家にいなければならないことを知り、勤めをやめる。「パパとママとどっちがいいと聞かれたので、どっちもいいと答えけるかな」子煩悩な両親と一人息子の生活は、作者の根気よい筆で、子供の探求心の問題、性教育の問題にまで殆ど育児教科書のように触れて行っている。
 今や允男は、青年となった。允男を
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