、今懐疑的になって来た心の目に、自分の幼馴染との間に生れた子をおんぶした嘗ての親友の若い母としての姿が浮ぶ。そして「高等な学術を研究している自分の方こそ断然弓子に勝っているものと今まで自負していたのだが、允子はたちまち奈落に墜落したような気持になった。」実に執拗に意識されている作者の勝敗感と、「女は男あっての女で」あるというこの作者の動かぬ婦人観が、ここにくっきりと刻されている。
允子は、こういう内的情態で、公荘というドイツ語教師と結びつく。急に進んだこの交渉は允子に何か不安を抱かせるのであるけれども、彼女は「相手が性のしれない人なら別の話だ。地位もなく、人格もないような男なら、それはもちろん考えなくてはいけない。併し相手は大学を出た人だ。高等学校の講師だ。」というよりどころで安心する。允子が自分の姙娠を知って正式の結婚を求めるが公荘は、允子には話さなかった病妻が在り、堕胎をせまる。允子はそれを強く拒絶する。「国法を犯すことがこわいというより、胎内に芽《めぐ》んだものを枯らしてしまうことが恐しいのだ。」「どうにか育てられるものなら、そのために、よし自分は屈辱を受けようとも、生れいずる
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