苦しむが、年頃の女には、結婚の外には生活がないように考える世間の習慣に批判をもち、結婚というものも「せいぜい生きて行く上の一事件ぐらいにしか考えていない」という気持に立ち直り、允子は兄の結婚を動機に、医学の勉強をはじめる。允子は自分を一本の牛乳瓶にたとえ、それが一寸した心の動乱で「ひっくりかえらないようにするためには下に重い金の枠をはめる必要がある。むずかしい学問は、むずかしい職業は、いわば重たい金の枠だ。そういう基礎がおかれてこそ、はじめて瓶は一本立ちが出来るのだ」と考える。
 必ずしも全面的に納得は出来ないこういう動機で医学生になった允子は、その専門学校を卒業する近くから、ひどく生活の空虚感、乾燥に苦しむようになり、再び一つの疑問が彼女の前に現れた。「こういう汚い仕事をする人がなかったら学術は進歩しないわけだけれど、しかし自分のような女までがこういうことをやる必要があるだろうか。」男にだって出来るこういうことでなく女なら――女でなくっては出来ないという仕事は――それは何だろう。危っかしい自分に重い枠をかけるのが目的で、むずかしい[#「むずかしい」に傍点]学問である医学を選んだ允子の
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