で、見落せない性質をもっている。山本有三氏は、この根幹をなす生涯のテーマから出立して、更にその人間としてなすべきこと[#「なすべきこと」に傍点]の内容と経過とその帰結とを小工場主、小学校、中学校、大学等の教師、下級中級サラリーマン、勤労婦人の日常葛藤の裡に究求し描き出そうとする。戯曲において、題材は時に神話に溯《さかのぼ》り、封建の武人生活に戻り、西郷南洲からお吉に迄拡がるが、根本の課題は常に変らない。そして登場する人物、配役も、少くとも「津村教授」から「真実一路」に至る間は、小説と戯曲とでいくらかの違いこそあれ、これも些か注意ぶかい読者ならば、おのずから心づかずにはいられない反復をもって、良人以外の男と恋愛的交渉のあった妻、ある妻。その女に対して、人間として為すべき道義の自覚から行動する男。それに母のない息子、ひがんだ息子、希望されずに生れた子、血の信じられない子等が絡んで、なすべきこと[#「なすべきこと」に傍点]の諸ヴァリエーションが奏せられているのである。
 山本有三氏の文章が、平明であろうという特徴は、この作者のねうちの一つとして既に十分評価されている。もう一歩迫って、文学的に
前へ 次へ
全34ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング