書院より戯曲集『女人哀詞』を出版。『風』なお継続。三月末完結の予定。」その後、「女の一生」「真実一路」につづいて目下「路傍の石」が東西両朝日新聞に連載中である。
 さて、この自伝の概略から、読者はどういう感銘を得るであろう。ここには、一人のなかなか人生にくい下る粘りをもった、負けじ魂のつよい、浮世の波浪に対して足を踏張って行く男の姿がある。自分の努力で、社会に正当であると認められた努力によってかち得たものは、決して理由なくそれを外部から侵害されることを許さない男の姿がある。人生の路上で受けた日常の恩を忘れず記載し、又人生の路上で受けた不当な軽蔑や無視については生涯それを忘却することの出来ない執拗な人間性の姿がある。高をくくって軽く動かそうとされると、猛然癇を立てるけれども、所謂情理をつくして折入ってこちらの面目をも立てた形で懇談されると、そこを押し切る気が挫ける律気で常識的な市民の俤が髣髴としている。五十年の生涯には沢山の口惜しい涙、傷けられた負けじ根性を通じての、自己の存在の主張がなされた。『生きとし生けるもの』の序でこの作者が「どんな形をしていようとも、この世に生を享けているものは
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