きなり子供を産むためという風には考えられないこと。先ず人間としての男女の結合とみるべきで、さもなければ何かのことで子供を持つことのできないでいる夫婦には結婚生活の意味がないということになるだろうし、それは人間の自然な理解にもとること。自分の生活に自分で責任が持てるという意味からは、媒酌結婚よりもやはりお互に相手を選んだ結婚の方が心持よいだろうというような意見を述べていた。
この座談会は、いろいろな意味で現代の若い婦人の生活態度の面を示している点で注意をひいた。座談会へ出席して物をいう心持を持っているということは、若い婦人として何か積極的なものがなければしないことだと思う。そういう世の中へ出て発言するだけに歩み出している若い婦人が、今日の社会の一人の女として結婚についても、本能的に人と人との結び合いとして把握していないで、子供を産むためという風な素朴な内容で言うところが私たちの感想をひき出すところだと思う。恋愛の心持を経験していない若い婦人が、観念の中で考えても結婚ということがまだ本当にわかっていないというのは素直な言葉であると思う。わからないということは、私どもにすらりと受けとられるし、一種の好感も覚える。けれども、わからないならわからないとして、どこまでも自分として納得できるまでわからないで通しているかといえばそうではなくて、半面ではごく常識的な結婚の幸福とか生活の安定とかいうことが、知らず知らずのうちに打算せられていて、親の眼鏡にかなったものなら安全だろうという結論がちゃんと気持の中にできている。両親の反対する結婚が必ず人間的な内容ですぐれたものだというようなことはもちろんいえないことである。経験に富んでいるということがすなわち人間的識見の高いということになっているような幸福な両親を持っている人ならともかく、その娘さんのいう場合では、ただ世の中のいろいろのことを知っているからという意味でいわれていた感じであった。もし真に人生のわかった人間をみる明のある両親であったならば、かえって結婚というようなことを自分たちまかせにして考えるような娘を悲しく思うのではなかろうか。何も親に楯つくのがいいというわけではなしに、やはり娘は娘としての人間の好みとか判断とかをちゃんと持っていてほしいと思うだろう。結婚が子供を産むためといわれることの中にも今日の産めよ殖やせよ、が反射的にとりあげられていることを示している。
専門学校程度の教育といえば現在の日本の若い婦人の身につける教育としては最高の部に属している。座談会へ出てそのようなことを述べるという点では、人に臆さないという意味で社会的でもあると思う。それにもかかわらず、一人の女として人生に向ってゆく気魄の点では何一つ生新なものを示していない。かえって年をとっている男の作家の方が現実生活の中へ何か人間として前時代よりも前進したものを求める態度である。教育や目下働いている務め先の知的な性質というようなものは彼女に本質的なプラスの一つともなっていない。世の中に出て働く若い人の数がふえたということや、働く部門の拡大ということとその人たちの生活の実質の高まりとはこのようにも距りをもっているのだということは、私たち女をしみじみと考えさせることではないだろうか。その人にしろ菊池寛の小説は通俗小説だというであろう。けれども生活の根本ではどれだけの相違をもっているであろうか。文化のある時期には、若い人が精神においても若いといいかねるような悲劇が生じる。
教養の常識性はこれとは反対の形でも現れるものだ。例えば森田たまさんの随筆の中には、着物について、住居について、食物について大変趣味の高いような話がたくさん出る。どこそこの何という店の何。私たちの日常の世界にはそう入って来ない店の名や宿の名や食物の名が語られているが、趣味というもの、そういう面で教養と呼ばれるものの本来の姿とはいかなるものであるはずなのだろうか。世間には定評というものがある。その道の人なら誰でも知っているというものもある。その店のものがその店なりによいということは当り前だし、いわゆる通という人たちが、かれこれ比較したりすることも当り前のことだろう。それらのことを、知らないような年齢や種類の人にむかってとかく語ること、そして感服さすこと、それが趣味の本体であろうか。
趣味というようなものは人の心にあっても物の関係でも、何でもないようなところに含まれ発露するところが面白いので、女の味わいというようなものも計らぬところで横溢してこそ意味がある。女形ではできない生きた女が現れる。何でもないようなもののとり合せの間に人の真似られないその人らしさで着物も着、料理もする、そこにその人でなければみられない笑顔と同じような身についた美が発揮されてゆくのだと思
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