飯や薯の煮ころばしで、狐の好意を釣出す訳なのである。
 ところで、三郎は、そこへ気がついて、同志を募っては、原っぱ中に子持ち狐を探しに行く。いくらその時分でも、人間に面と向えば狐の方で逃げるのだから、なかなか子持ち狐、それも強飯と薯の煮たのを供えられる資格のある、生れたての子狐を伴れたのには出会わない。けれども、四日五日と欠かさず歩きまわっているうちには、一つぐらいは見つけられる。そうなると、母親に注進する。注進したばかりではなく、必要があれば現場をも見せる。
 そして、作ってもろうた施物を持って穴へ行く彼は、十分の一ぐらいのお裾分けを置いてやったなり、あとはさっさと、自分達のお腹の中へ施してしまうのである。
 そんなことをしながら、三郎はだんだん大きくなった。そして、多分十一二頃、隣村の何とかいう寺へ、お小僧に住込ませられた。
 隣村といっても、その時分の隣なのだから、それこそ狐や狸の穴だらけな野原を越え、提燈のろうそくを掠める河獺《かわうそ》のいる川を越えた二三里先の村なのである。
 そこへ字を習いに、毎日通ってはいられず、また、「お寺様への附届け」を十分するほど、子供に寛大になっ
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