三郎爺
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)荒夷《あらえびす》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)草|茫々《ぼうぼう》とした
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)叱※[#「口+它」、読みは「た」、第3水準1−14−88、362−16]
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一
今からはもう、六十七八年もの昔まだ嘉永何年といった時分のことである。
江戸や上方の者からは、世界のはてか、毛むくじゃらな荒夷《あらえびす》の住家ぐらいに思われていた奥州の、草|茫々《ぼうぼう》とした野原の片端れや、笹熊の横行する山際に、わずかの田畑を耕して暮していた百姓達は、また実際狐や狸などと、今の我々には解らない関係を持って生活していたものらしい。
冬枯れの霜におののく、ほの白い薄《すすき》の穂を分けて、狐の嫁入行列が通ったり、夜道をする旅人の肩に、ちょいと止まった狸が、鼻の先きに片手をぶら下げると、それが行手をふさぐ大入道のように見えたりしたことは、彼等の考えから云わせれば、決して「気の迷い」ではなかったのだそうだ。
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