《うぬぼれ》――幼稚であり、無智ではあるかも知れないが、決して憎むことの出来ないほど、単純な可愛い自信――を、根強く彼の心に感銘させただけの侠気は、その時分も弱い者の肩を持つくらいのことはさせただろう。
 けれども、彼の持つ同情心も侠気も、極く粗野なものである。
 心の訓練によって磨いた徳ではないのだから、人間の子供が与えられるだけのものは皆与えられ、それが衝動的に命令するがままに行動する。
 それ故、今、弱い者の肩を持って、多勢の悪太郎共を相手に竹槍合戦をする彼は、その竹槍を投げ出すと、こっそり、他所の畑へ忍び込んだり、果樹へ登ったりする。そこに何の矛盾も感じない。
 そして、今なおその味の忘られない一つの計略によって、しばしば貧乏な百姓の彼としては、異常な美味にありついた。それはこうである。
 なにしろ、その頃は狐が人間より遙に多い。それ故、どうしても畑地や田が彼等に荒らされる。春から穴に入る狐は、ちょうど収穫時頃から、暴威をたくましゅうする。そこで、彼の村の一つの習慣として、子を育てている狐を見つけたら、その穴へ、強飯《こわめし》や薯《いも》の煮たのやらを持って行ってやる。その強
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