の手が肩からブラブラに下ってしまっていた。
二
そのブラブラになってしまった手をどう療治したのか、彼も知らず、私もまた知らない。
大方、何かの草の根を煎じてむしたくらいのことほか、出来はしなかったのだろうけれども、そこは御方便なもので、余病も起さず、赤坊の軟い骨はどうにか納まって歩ける頃には、別に不自由もないほどになった。
けれども、よく見ると、右の手は左の方よりかなり短い。そして肩のところが、変に嵩《かさ》ばったようになっているくらいのことで済んだのは、何しろ仕合わせであった。
赤いお月様に右の手の長さを一寸足らず取られた以外、彼は死なせたくても死なないような丈夫な子に育った。大きな大きな二つの眼、響くような声と、岩畳《がんじょう》な手足、後年彼を幸福にもし、不幸にもした偉大な体躯が、年中|跣《はだし》で馳けまわっていた頃から、そろそろと彼に、仲間での有力者たる特権を与え始めた。
ずいぶん見かけは、粗暴な様子ではあったが、心は案外おとなしい、親切なところを持っていたというのは、あながち自画自讃ではないらしい。
喧嘩には、俺がなければ納まらないという自惚
前へ
次へ
全51ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング