方をきめてやるという条件つきで、そのことを話すと、女房も、「それも、よかっぺえて……」と云う。
 まるで、何に比較したらいいのか分らない単純さで万事は運び女房はいきなり彼の家から、どこかの商人の家へ後妻に迎えられることになったのだそうだ。
 もちろん、いざこざの起ろうはずはない。嫁入りの日、彼は自分まで嬉しそうにニコニコしながら、念入りに女房の顔を剃ってやったり、髪結いの迎えに行ってやったりした。
 乏しい中に、新しい帯まで祝ってやった彼は、自分も仕合わせそうな顔付きで、女房を嫁入らせたのである。
 独りになった彼は、前より一層のんきになって、気が向くと朝出たぎり夜まで家をあけっ放してどこへか行って来る。飼われた七面鳥などは、餌などをちゃんと貰ったことはない。頼んだ下駄を、いつまで待っても出来《でか》さないので、さっさと取り戻して行ってしまう。
 家があるのは名ばかりで、彼はふらふらと足にまかせ、風来坊のように暮していたのである。そのとき、彼の心の中にはどんなことが起っていたのか、私には、はっきり云えない。彼もまたそう明瞭に、俺はこう思うという心持もなかったのだろう。
 そして、ようや
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