どれもそれがほんとだとは思われないが、博奕《ばくち》を打ったりしていたことだけは、間違いなかろう。
とにかく、そんなことで、幾分山沢さんの未亡人も、注意していたとき、彼は或るとき、突然告発された。
それをきいて騒いだのは、村の者ばかりではない。山沢さんの未亡人は真赤になって憤った。
女主人になったので、構えの中から、そんな不面目な者を出したと云われては、とうてい辛抱がならないと思ったのも、無理ではなかっただろう。
その原因が何であったのか、私ははっきり知らない。けれども、聞くところによれば、何でも、桑苗の取引きのことから、商売仇に訴えられたものらしい。
彼は十日ほど、暗い処に拘留されていた。「ところが、有難いことには、神様のお加護で、身が明るくなった」尋問されたとき彼は何日分かの日記を、すっかり「調べ」たのだそうである。
彼の「日記を調べた」という意味は幾日分かの日記を、すっかり暗誦したということらしい。自分でも、気味が悪いほど、何でもはっきり思い出せる。手紙の何行目に、こう書いてあるということまで、目に見える通り心に写ったのだそうである。
そのためだったのか、どうだか分
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