こんなことは、山沢さんと彼との間では、何か感情の行違いなどは起そうにも、起らないほど、どうでもいいことではあったが、傍の者の目から見ると、ただハハハハ、それは面白いなだけでは済まない。山沢さんをごまかすとか、手の中にまるめこんでいるとか、大騒ぎをした。
けれども、彼は、それ等の非難が、皆自分と山沢さんの仲のよさを羨ましがっているからだということをちゃんと知っていたから、心配するどころではなかった。内心、ますます得意になりながら「山沢家の大久保彦左」の自信を強めるに過ぎなかったのである。
泥まみれの「大久保彦左」は、家の出来て来るのが楽しみなのはもちろんであるが、足りなくなった材木を巧くやりくったり、わずかの職人を上手に動かしたりして、山沢さんに、よくしてくれたなと云われるのが、何より嬉しかった。
仕事の方は、彼奴に聞けと云われると、彼はほくほくせずにはいられない。
来合わせた客の前などで、これがよくしてくれるからというようなことを一言云われると、彼は大きな眼を細くし、頸をすくめながら、溶けそうに、ニコニコしたりしたのである。
十
晩飯を済ませて、わずか一
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