の塊だか見分けのつかないようにきたなくなってしまう。
あんまり汚れがひどいので、さすがの彼もとうとう断念して、散切《ざんぎ》り頭になったのである。
散切りになった三郎爺は、「いきがよく抜けて好い気持だ」と、急にさっぱりした頭を珍しがりながら朝から晩まで、土鼠のようになって稼いだ。
ちょっとでも気を緩めれば、土方などというものは骨惜みをする。それを見張りながら、隙を覗っては、木材を盗んで行こうとする者の番をするのだから、彼は五分と一つ所にじっとしてはいられない。
柔かい泥を蹴立てて、彼は仕事場中を、叱※[#「※」は「口+它」、読みは「た」、第3水準1−14−88、362−16]して歩かなければならないのである。
仕事の方が、だんだん纏まって来るにつれて、彼は自分の家を離れているのを、万事に不都合と思い初めた。夜廻りをするにも、樹木に水を遣るにも、傍にいなければ思うようにならない。
そこで、或る日、彼は女房に「下小屋さ、引越すべえ」
と云った。下小屋というのは、仕事場の片隅に立っている小屋で、見廻りに来た者の休み処と道具のしまい処をかねたものである。女房も、そうなれば、飯を運ぶ
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