じたらしい。
それから間もなく、始まった普請に就て、大工の宰領から、木材の選択、現場の見張りまで皆三郎に一任された。
九
そのときも山沢さんは例の通り、簡単に仕事の要領を話すと、あとは貴様のいいようにしろと云ったなり、どこの大工を使えとか、左官を使えなどということは、一言も云わなかったのだそうだ。
この山沢さんの度量が、「胆に銘じた」彼は、「旦那様、この俺が引受けました」と云って帰るとすぐ、自分の手の及ぶかぎり、腕こきのものを集めた。
そして、先ずこれならばと思うものが揃うと、今度は彼が先棒となって、泥運びもすれば胴突きの繩も引張る。
大きな体を泥だらけにして、出来上って見なければ、何がどうなるのか分らない彼一流の方法で、小気味よくグングンと仕事を運んで行った。
煙草休みは一時間と定め、土方達が舌を巻くような激しい働き方をしながら、彼は我ながら自分の腕前に、「感歎措く能わず」というような心持になったりしたのである。
彼が御秘蔵のちょん髷を切ったのもこのときである。
汗に塗れ泥に塗れ、おまけに「おがっ屑」まで浴るちょん髷は、一日経つとまるでもう髷だか芥
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