いなどは、彼が下駄の真中から割れるような体を、のしのしと運んで、人の三層倍もありそうな眼で、相手をグッと睨まえながら、響き渡る大音声で、彼相当、また同時に相手相応の理窟を並べれば、大抵は雑作もなく片がついてしまう。
そこで人も重宝がって、何か事がちと面倒になると、彼を迎えに行く。「三郎どん、はあ、またやくてえもねえ奴等がおっぱじめやがった。何とか一言云ってやってはくれめえかな」
山から切って来た木を挽いている彼は、かなりもったいぶって、応と云いながら立ちあがる。そして、そのごたごたの真中へ行くと先ず悠々と煙草を一服喫ってから五六分の間に、どうにか形をつけて来る。
自分は生れつき性に合わないで文字は大嫌いだ。だから偉い言葉はちっともしらない。けれども、これもまた生れつきで、曲ったことは、兎《う》の毛で突いたほども黙っていられぬ性分だというような意味のことを、何かにつけて云ったものだそうだ。
それ故、ある意味に於ては、他律的にも彼は「竹をわったような」男になり、一度頼んだら大丈夫な三郎どんにならなければならない。
この周囲の状況と、彼の何者にも負かされる心配のない腕力と、天性授け
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