られている大まかな、こせつかない心持ちとが、どうしても彼を侠客のようなものにせずには置かなかった。
 従って、他の百姓、大工とはどこか違った生活が――たとえば、物争いに鳧《けり》がついた祝酒や、振舞や、近所の村のそういう仲間との交際――目に見えなく彼の地味さを失わせて行った。
 金銭のことなどについても、そうは焦慮せず、入るものは入るがいい、出るものなら勝手に出ろといった調子だし、他の者のような追従や世辞は一言も云わない。思ったままを、浮んだなりの言葉で云う。
 それに対して、人があまりかれこれ云わないことが、彼の美点――自分をちっとも被わない。ありのままで暮すすべての心持を助長するとともに、或る一部からの反感を免れなかった。

        六

 もの堅い一方の、大きな声も出せない者から見れば、彼は恐ろしい無遠慮なものである。わがもの顔にふるまう奴に見える。何でもつけつけと、赤面しようが、冷汗をかこうが、お構いなしに真正面から遣り込める。
 けれども、人に嫌われもするそれらの点を、その開墾地の旦那様と云われていた、山沢さんという人が、すっかり見込んでしまった。そして、家が出来上っ
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