が二十三のときに、彼の村から七人の新百姓が出ることになった。
 開墾団体から田地をいくらかと、金や材木を供給されて、新しく出来た村へ新しい百姓として家を持たせられるのが、その新百姓なのである。
 若い者は、皆相当に競争もしたのだが、運よく三郎も、その中の一人として「眼きき」された。そして、親達の誇りと、彼自身の自信との間に、実家から、十四五丁ほど隔った開墾地の一郭に、彼はお手のものの普請を始めたのである。
 今も昔も、存外些細なことで、人の名誉心が刺衝されることには変りがなかったものと見えて、数ある若者のうちから新百姓に選ばれたということが、彼の非常な箔《はく》つけになった。今までは、「屋大工の三郎どん」だったのが、何かよぶんな言葉が必要なような心持を、人も持ち、まして彼自身は持たずにはいられない。
 いつとはなしに、彼は村の男達《おとこだて》のような――この「よう」なというのは大切な言葉である――ものに祭りあげられることになった。
 もちろん、彼にしても嬉しくないことはない。むしろ大得意に近い心持で「若けえにゃあ見上げた弁口」を振う機会が次第に多くなった。
 実際その頃の、喧嘩、物争
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