もありそうに自信をもって、二人の仲間に云った。
「私にはもうちゃんとわかってよ」
「早いな、云って御覧」
「なんなの」
――私は、サラドを口に運びながら、もがもがと呟いた。
「恋人たち」
思わず、嬉しげな好意ある微笑が皆の顔に燦きわたった。ああ、人生はまだまだよいところだ。あのような禿でも、あのように恋愛が出来る!
「何故断言出来るの」
「だって……氷の中のは三鞭酒よ。――十人の中九人まで、若しかすれば十人が十人、細君と夕飯を食べるからって三鞭酒を気張りゃあしないことよ」
水色格子服の女性は、若い女のように小指をぴんと伸して三鞭酒盞《シャンペン・グラス》を摘みあげた。男も。乾杯《プロウジット》。
三鞭酒は、気分に於て、我々の卓子《テーブル》にまで配られた。少し晴々し、頻りに談笑するうちに、私は謂わば活動写真的な一場面を見とめた。事実黄金色の軽快なアルコオルが体内に流れ込んだのだから、隣の食卓の一組は食堂に来た時より一層若やぎ恍惚《うっとり》として来たらしい。男は今、つれの婦人のむきだしの腕を絶えず優しく撫でさすりながら、低声に顔をさしよせて何か云っている。婦人は、平静に母親らし
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